あらきけいすけのメモ帳

あらきけいすけの雑記帳2

行列のn乗を固有値だけから求める(固有ベクトルも対角行列も求めないシルベスターの公式)

\newcommand{\SD}{{\small\displaystyle}}\newcommand{\a}{\alpha}\newcommand{\b}{\beta}\newcommand{\g}{\gamma}授業のための覚書*1。 Cayley-Hamiltonの定理*2, 剰余の定理*3, Lagrange の補間*4を用いると、対角化の操作*5をスルーして行列のn乗を求めることができるのでメモ*6。シルベスターの公式*7の応用例(\small f(A):=A^n)になっている。行列のn乗なんて、ケーリー・ハミルトンの定理の式で与えらえる行列の多項式の剰余類への還元だから、多項式の剰余の定理を使えば十分。例題は3\times3行列:\SD x^n=(x^3+ax^2+bx+c)Q(x)+px^2+qx+r より \SD x^3+ax^2+bx+c=0 の解を \a, \b, \g とすると*8\SD \a^n=p\a^2+q\a+r (\b, \gも同様)である。これは3点 \SD(\a,\a^n), \SD(\b,\b^n), \SD(\g,\g^n)を通る2次関数を求めることに他ならないから、ラグランジュ補間の公式より
 \displaystyle px^2+qx+r\displaystyle =\a^n\frac{(x-\b)(x-\g)}{(\a-\b)(\a-\g)}\displaystyle +\b^n\frac{(x-\g)(x-\a)}{(\b-\g)(\b-\a)}\displaystyle +\g^n\frac{(x-\a)(x-\b)}{(\g-\a)(\g-\b)}.
よって3\times3行列 \displaystyle A固有値 \a, \b, \g が非零で縮退がないならば

行列のn乗:
\displaystyle A^n\displaystyle =\a^n\frac{(A-\b I)(A-\g I)}{(\a-\b)(\a-\g)}\displaystyle +\b^n\frac{(A-\g I)(A-\a I)}{(\b-\g)(\b-\a)}\displaystyle +\g^n\frac{(A-\a I)(A-\b I)}{(\g-\a)(\g-\b)}.
公式の意味はケイリー・ハミルトンの定理より固有値に属する固有ベクトルの空間への射影をとる行列(Frobenius covariant, フロベニウス共変行列*9)を構成できるということ*10。だからこんな応用もある;
逆行列(n=-1):
\displaystyle A^{-1}\displaystyle =\frac{1}{\a}\frac{(A-\b I)(A-\g I)}{(\a-\b)(\a-\g)}\displaystyle +\frac{1}{\b}\frac{(A-\g I)(A-\a I)}{(\b-\g)(\b-\a)}\displaystyle +\frac{1}{\g}\frac{(A-\a I)(A-\b I)}{(\g-\a)(\g-\b)}.
任意のベクトルの固有ベクトルへの分解(n=0):
\displaystyle\vec p\displaystyle =\frac{(A-\b I)(A-\g I)}{(\a-\b)(\a-\g)}\vec p\displaystyle +\frac{(A-\g I)(A-\a I)}{(\b-\g)(\b-\a)}\vec p\displaystyle +\frac{(A-\a I)(A-\b I)}{(\g-\a)(\g-\b)}\vec p.
式の形はきれいだけど、一般の場合に計算のコストが高そう。この式のありがたみの極大値は「整数成分の3\times3行列の筆算」くらいかも。

*1:筆算での処理を念頭に置いている。数式処理ソフトで瞬殺という意見はいまは無しの方向で。

*2:ケイリー・ハミルトンの定理 - Wikipedia

*3:剰余の定理 - Google 検索

*4:ラグランジュ補間 - Wikipedia

*5:3\times3行列Aの場合だと、固有値 \a, \b, \g を求め、

  1. 固有ベクトル \vec p_\a, \vec p_\b, \vec p_\g を3つとも求め、
  2. 変換行列 P=(\vec p_\a, \vec p_\b, \vec p_\g) を構成し、
  3. その逆行列 \small P^{-1} を計算し、
  4. 対角行列 \small\tilde A=P^{-1}AP=diag(\a,\b,\g) を求め、
  5. \small A^n=(P\tilde AP^{-1})^n=P\tilde A{}^nP^{-1}=P\,diag(\a^n,\b^n,\g^n)P^{-1}を求める

*6:ケーリーハミルトン n乗 - Google 検索 剰余類を用いた解法、漸化式と関連付けた解法は、高校数学に行列があった頃のページがいくつか残っているようだ。

*7:Sylvester's formula - Wikipedia このページには固有値が縮退をしている一般の場合の公式も記述されている。

*8:ここでは重解を持たないと前提する。

*9:Frobenius covariant - Wikipedia

*10:(A-\a I)(A-\b I)(A-\g I)=O より A(A-\b I)(A-\g I)=\a(A-\b I)(A-\g I). この両辺に任意のベクトル \vec p をかけて A\underbrace{(A-\b I)(A-\g I)\vec p}_{\vec q}=\a\underbrace{(A-\b I)(A-\g I)\vec p}_{\vec q} より \vec q=(A-\b I)(A-\g I)\vec p\small A固有値\a固有ベクトル